今、本業の他に勉強していることがあり、以前同じ教室で一緒に学んだ仲間6人で久しぶりに集まることとなった。
待ち合わせは最近スピリチュアル系のテレビやSNSで取り上げられ有名になった某神社。
その日もかなりな混雑ぶりで、改めてメディアの力のすごさを思い知る。
まあ私もその一人なのだから文句は言えないが。
参拝が終わり、近くのファミレスに移動した。
総勢6人。平均年齢50オーバーの男3女3。
知らない人から見たら「熟年婚活合コン」と間違えられそうな組み合わせだ。
積もる話に花が咲き、ボトルワインも2本目が空きそうな頃、正面に座っていた70代くらいの男性(以下、おじいさん)からいきなり
「お前ら!さっきからうるせえんだよっ!いい加減にしろ!」
と怒鳴りつけられた。
見ると顔はプルプルと震え、激怒を通り越して激昂ともいうべき怒りようだ。
「あ、やだ。ごめんなさい」
「ちょっと声が大きかったね」
「気をつけます。。。」
女性陣の3人が口々に謝罪する中、私の隣に座っていた仲間の男性の1人が
「お前の方がうるせえんだよ、ジジイ」
と食ってかかってしまった。
普段は明るいムードメーカー的存在のその人が、こんな一面を持っていた事にも驚いたが、今はそんなことに驚いている場合ではない。
「なんだとコノヤロー!表に出ろ!」
と怒り心頭のおじいさんは立ち上がろうとして、でもフラッとよろけてまた座り込んでしまった。
「おう、表にいこうぜ」
とまだ食ってかかる仲間を
「うちらがいけないんだから」
となだめつつ、おじいさんの様子が気になった。
これ以上怒らせたら頭の血管キレちゃうよ・・・
うちらが原因で救急車騒ぎなんて勘弁してよ・・・
万が一のことがあったら目覚めが悪すぎるよ・・・
女性陣がさらにおじいさんに謝罪し、なんとかその場は収まったから良かったが、
「気にすることねーよ」
とまだ鼻息の荒いムードメーカー。酒癖の悪い性質だったのか?
それからしばらくすると「フンっ!」とうちらを睨みつけながらおじいさんは伝票を手にレジに向かった。
女性陣はおじいさんに背を向けて座っているので気づくこともなく、私以外の男性陣2人はなにやら話し込んでおり、私だけがそのおじいさんを目で見送った。
おじいさんのその背中はなんだかとても小さく、しょぼんとしているように見えた。
周りの客の誰一人としておじいさんに援護射撃をしなかったからか。
注意されたのに我々が席を立とうとしなかったから負けたような気分なのか。
大声を出してしまった自分を恥じたからなのか。
言わずにいられなかった気持ちと、言った後その場に居づらくなる気持ち。
私はそのとき痛いほどおじいさんの気持ちが理解できた。
なぜなら、つい最近自分も同じような体験をしたばかりだったから。
その数日前に電車に乗ったときのことだ。
平日の昼間ということもあり電車は空いていたので、迷わずシート席の端っこに座った。
何度か駅に止まるたびに空席は埋まっていき、やがて立っている人も増えてきた。
自分もそうだが、立つしかない時はドア横の、席との仕切りにもたれかかれる場所に立つ。選べるならば進行方向向きに。
その日も自分と仕切り板を挟んだその場所に人が立った。
そして、しばらくして私は頭部に異変を感じた。
立っている女性の長い髪の先が、私のハゲ頭を時折そーっと撫でるのだ。
こういうことは初めてではない。たまにあることだ。
なので、しばらくは我慢することにした。
すぐに降りるかもしれないし。
その女性の髪は、ポニーテールというより馬のしっぽと表現した方が近い量と束ね方で、それを時々無意識なのか「ブルブルっ」と震わせる。
あの行動はロン毛にしたことのない私には理解できないが、満員電車でも髪の長い女のブルブルはよく見かける。
それがどれだけ真後ろに立っている人にとって、迷惑で不快なものか想像すらしていないのだろう。
そして耐えること30分は過ぎた頃、何度目かのプルプルをまたやられた。
その瞬間、ついに私の堪忍袋の緒が切れた。
立っているその若い女性の肘辺りをトントンと叩き、
「その髪の毛、前に持ってってくんない?」
と言った。
え?と若い女性は「何を言われてるのかわかんなーい」みたいな顔をする。
私は外人か幼い子に話すように、ひとつひとつジェスチャー付きで
その髪の毛、私の頭、ずっと当たってる(ここはツルっと撫でた)、と伝えた。
前に座ってる何人かが「なに?トラブル?」みたいな表情でチラ見して来る。
若い女性はようやく理解したのか「ごめんなさい」と言って一歩前に進んで立った。
その馬のしっぽを前に持ってきゃいいだけなのに。
寄りかかるなと文句言ったみたいじゃねえか。
女の髪の毛で頭を撫でられる不快さは解消されたものの、車内の居心地は最悪だった。
他の乗客から責められてるような気がしてならないのだ。
「あの子、かわいそう・・・」
「自分がハゲてるからって過敏反応なんじゃね?」
「てか、あの子の髪の毛、あの親父のハゲ頭にずっと触れてたんでしょ?ムリ!絶対ムリ!アタシならすぐに帰ってシャンプーするっ!」
そんな心の声が車内に渦巻いているような気がしてならなかった。
こっちは被害者なのに、クレームを言った途端に加害者みたいな気にさせられる。
そんな気持ちを、きっとあのファミレスのおじいさんも感じていたんじゃなかろうか。
だからクレーマーハゲ親父からクレーマーおじいさんへの助言。
おじいさんは悪くないよ。
迷惑かけてたことにも気づかなかった自分達が悪かったんだから。
でも、もうちょっと違う言い方があったかもね。
「クレーム言った後に周囲が自分の味方になってくれるようなクレームを言うのがプロのクレーマーだ」
とテレビで自称プロのクレーマーが自慢気に言ってたし。
お互い、もっと上手にクレームが言えるような「愛されるクレーマー」を目指して、日々精進して参りましょう!