自分の親しい友人はみな知っていることだが、俺は超ウルトラスーパー方向オンチだ。
まず地図が読めない。
「現在地」と赤い印をつけてくれてないと、自分が今どこに立っているのかを探すだけで疲れてしまうから、最近は地図を見ることもしない。
地図アプリもスマホには入っているが、それを使って目的地に到着できた試しはない。
しかも、自分でも不思議に思うが、
「この方向で間違いない」
と思い込んでずんずん歩いてしまう癖がある。
それがほとんどの場合、正反対の方向だったりするから、間違いに気づいて元いた場所に戻るだけで一苦労する。
遅まきながら「そろそろ自分を疑ってみたらどうか?」という気にもなって来ている。
2月のこと。
千年の歴史に幕を下ろす、とニュースにもなった蘇民祭に友人に誘ってもらえたので二つ返事で行くことに決めていた。
当日もしも東京駅に着くまでに人身事故とかで電車が止まってしまったら困ると思い、前日から東京に泊まり込んだ。
そのくらいの意気込みだった。
東京駅には無事に着き、駅弁とおつまみとどっさりのビールも買い込み、友人に教えられた時間に出発する新幹線に乗り込んだ。
新幹線に乗ったら発車と共にビールを「プシュ!」と開けて1/3くらいゴクゴク飲むのが旅の醍醐味なので、その日も発車とともに意気揚々と飲んだ。
駅弁も平らげ、ビールも3本くらい空けたら襲ってくるのは眠気である。
いつの間にか気持ちよく寝ていたようで、トントンと肩を叩かれ、乗務員の検札で起こされた時はまだ半分夢の中だった。
モタモタしながらも切符を差し出すと、
「お客さん、この新幹線は目的地の水沢江刺駅には行きませんよ」
と理解不能なことを言う。
「え?なに?なんで?え?意味わかんないんだけど」
畳みかけるように質問する俺。
「お客様が今ご乗車されてる新幹線は北陸新幹線で、本来お客様が乗車しなければいけなかったのは東北新幹線なんです」
まるでわからんちんの子どもにでも話すような口調で、きっとなにやら絶望的なことを告げている。
ちょ、ちょ待てよ!(キムタク風)
北って付いてたらみんな東北に行くんじゃねえのかよ!?
紛らわしすぎるだろっ!
てか北陸ってどこやねんっ!
自慢じゃないが、方向オンチの上に地理オンチでもある。
この間なんか一緒に飲んでた友人に
「出身は奈良だよね?」
というと
「違うよ、三重」
と言うので
「ああ、愛知県か」
と返すと
「違うよ、三重県」
と言う。
「アホか、日本に三重県なんて県はないだろ」
とツッコむと、周囲が一斉に俺の方を見て
「やながわ、それ本気で言ってんの?」
と心配顔で顔を覗き込まれた。
周囲の反応から見ても、どうやら日本には三重県というものがありそうなので、潔く負けを認めれば良いものを、それだとやられっぱなしみたいでなんだか口惜しくて
「でもさ、日本に三重県って必要なくね?」
と、今考えるととてつもなくひどい負け惜しみを言って、三重出身の友人にとことん嫌われた。
きっとこれを読んだ三重県民の人全員からも嫌われるだろう。
話しを新幹線に戻そう。
「えー?じゃあ俺はこれからどうやって目的地に行けばいいんですか?」
と乗務員に聞くと、次に停車する長野駅で一旦降りて、大宮まで戻り、東北新幹線に乗り換えるしかないという。
真っ青になってスマホで長野→大宮→水沢江刺と検索したら、到着するのは夕方だった・・・。
13時過ぎに水沢江刺の駅で合流予定のスケジュールなのに。
絶対仲間と合流なんて出来る時間ではない。
その時間には仲間はすでに祭りの中だろう。
自分は誘ってくれた友人に慌ててLINEして現状を伝え、相談した結果「ドタキャン」することとなってしまった。
当日キャンセルとなれば旅館も当然キャンセル料が発生するわけで、そのキャンセル料は友人に立て替えておいてもらって後日支払うということになった。
そして、この間の土曜日。
なかなかお互いのタイミングが合わず、まだ立て替えてもらった分を返せてないのがずっと気になっていたのだが、その日は新宿で仲間数人と飲むとのことだったので、俺がその店の前まで行って、着いたらLINEするからちょっと抜けて来てもらうという話になった。
そしてその店の最寄り駅である新宿御苑前に着いて地上に出てみると、見覚えのある大きな四つ角だった。
「いま新宿御苑前に着いたから、もうすぐ着くよ」とLINEをし、
Tully’sがこの角にあるってことは、ここを左だな。と確信を持ってズンズン歩いていくと何やら様子がおかしくなってきた。どんどん寂しい風景になっていき、しまいには信じられないことに新宿御苑に突き当たってしまった。
え?御苑に来ちゃった?なんでだ?
ちょうど配達中のお兄さんがいたので、目的地の方向を聞くと
「この道をずっとまっすぐ行くと着きますよ」
と教えてくれたが、それは今自分がずんずん歩いてきた道だった。
またしても逆方向・・・。
着いたよの連絡が遅い事で友人を心配させては悪いと思い、小走りになりながら
「逆方向に歩いちゃったからもう少し時間がかかっちゃう。申し訳ない」
とLINEした。
すると折り返しLINE電話がかかってきた。
「やながわ、いまどこ?」
「ごめん、ごめん、すぐに着くから」
「いいから。いま周りに何が見える?」
と伝えると、
「分かった。そこ動かないで。今から俺がそこに行くから」
と言う。
とんでもない、そんな迷惑かけられないと言うと
「動かれる方が迷惑だから」
と、にべもない。
ド田舎から上京して来たおじいちゃんか、俺は・・・。
結局、その場所で友人を待ち、無事に落ち合えた。
立て替えてもらったお金を払い、
「ごめんね、抜けて来てもらった上にこんなに歩かせちゃって。」
と何度も謝り、じゃあまたと帰ろうとする俺に、
「俺も途中まで一緒に行くよ」
と、絶対に俺が迷わずに新宿駅まで帰れる場所までついて来てくれた。
しかも歩きながら
「ごめんね、俺が気が利かなかった。やながわが方向オンチだってわかってたのに。新幹線に乗る前にちゃんと確認してあげれば良かったんだよね。キャンセル料も旅館に頑張って交渉したんだけど、力及ばずで結局払うことになっちゃって・・・」
なんて言って来るではないか。
なんて良いヤツなんだ~(涙)
俺がダメダメなだけなのに。
ただ、若干バカにされてるような気がしないでもないが。。。
ちなみに乗り間違えた新幹線代だが、長野で降りてそのままUターンして東京に戻り自動改札機に入れたらハネられてしまい、窓口に行って事情を話したら、手数料は取られたがなんと全額返金してくれた。
ビール飲んで、駅弁食って、昼寝も出来て、旅行気分も味わえて、それが数百円で体験できるなんてなかなか出来ることじゃない。
それも蘇民祭に行こうとしたから体験出来たことだ。
俺の最初で最後の蘇民祭は「北陸新幹線 東京⇔長野 数百円の旅」を経て、友人に旅館のキャンセル料を支払ったことで、無事に幕を閉じた。